リ・フォープ 空いている地球展

2003年8月、2004年9月

宮崎みよしさん/NPO法人 RI・WFOAP 代表

テキスト:松本ひとみ

宮崎みよしさん(NPO法人RIWFOAP 代表)

一貫して神戸の地で様々なアートプロジェクトを企画され、ご自身も作家活動を続けてこられた、宮崎みよしさん。現在はカフェやギャラリー、イベントの拠点である「プラネットEartH」(※1)を元町高架下で運営されています。数多くの活動の中でも、地域と関係が深く、阪神・淡路大震災との関わりが深い事例についてお話しいただきました。

 

震災の影響で企画をとりまく環境が大きく変化

1993年から2005年まで、六甲アイランドのマリンパークで野外彫刻展「六甲アイランドWATER FRONT OPEN AIR PLAY—潮風・アート—」を企画していました。

トアロードで中華料理店をいとなみ、現代美術が好きな知人がいました。その知人がある時、六甲アイランドの一角に店舗を借りたのがきっかけで、ここで野外展をしたら面白そう、やってみようということになり、1993年より始まりました。最初は有志だけでやっていたのですが、野外展のタイトルの単語の頭文字をとって「RI・WFOAP」と名づけ、2000年にNPO化しました。

震災の年には、六甲アイランドは地割れして使えなかったので1年間休止しました。六甲アイランドは満潮の時に海水が沿岸を覆うような設計になっていて、噴水もあったのですが、地震で壊れてしまいました。「六甲ランドAOIA」というアミューズメントパークが近くにあって、プールがありおしゃれで良いロケーションだったのですが、震災後に倒壊、ついには撤退してしまいました。その後、人通りが少なく治安が悪くなったのですが、あえて野外展を再開しました。我々が企画をすることによって神戸市民や行政は六甲アイランドのマリンパークのことを気に留めてくれ、草むしりをするなど場所の整備をしてくれました。このようにして場所を維持できたことは、ひとつの芸術の力だと思います。

井上廣子さんは奈良の作家で、社会性のある作品を発表されていましたが、この1996年度の作品以降、より一層ストレートに社会的な意味合いを表現する作品が多くなりました。野外展の際は、仮設住宅を使った作品を制作され、仮設住宅を使用する交渉ができるように協力をしました。

2002年、六甲アイランドマリンパークに隣接して大学が設置され、もう私たちが動かなくても場所は継続され、また新たに開発される気配が感じられたので活動は終了しました。

 

悲しい気持ちから目を背けずに向き合うことで、次に進める

震災後、長田の御蔵地区の住宅街に多く存在していた空き地を活用し、野外展「空いている地球展」を行いました。

長田は震災によって風景が全く変わってしまった地域で、家がひしめいていた場所が一瞬にして更地になってしまいました。そのあとに再び家を建てていくのですが、帰って来たくても、さまざまな事情があって帰ることがままならない住人も多く、空き地が点在するようになったのです。この長田という町に空き地があるという状況を知り、展覧会をしたいということになって、2003年、2004年と2回開催しました。

1度目は、空き地をそのまま活用した展示を行いました。例えば、震災で崩れた家の瓦が積み上げられていたのを使わせてもらえるようお願いして瓦を積み上げた、インスタレーション作品などです。特に印象的だったのは、白地に黒い模様を描いた旗を空き地にたくさん立てるという福井恵子さんの作品で、鎮魂の意味が込められていました。長田の人たちからは「亡くなった人のことを思い出すからやめてほしい」という批判が多くありましたが、私としては、悲しい気持ちから目を背けずに、表に出して泣いてほしいと思ったのです。多くの人が被害を受けたことは事実ですが、決して誰かが悪いということではありません。泣いて、泣いて、はじめて次に進めるのではないだろうかと考え、そのきっかけを作りたいと思いました。井上廣子さんの作品にも同じことが言え、彼女の作品に対しても批判が多かったのですが、ただ批判するのではなく、現実に向き合ってほしいと考えました。

2度目の「空いている地球展」の時には、空き地にフェンスが立てられてしまいました。それでも、中に入らせてもらえる場所があったのでそこで展覧会をおこないましたが、場所としての魅力が薄れてしまったと思ったので、二度で終了しました。

このプロジェクトは、大地への鎮魂、自然にかえるということが通底したテーマだったように思います。

 

場の力をアートの力で抽出する

「地力」とは、町の中で面白い空間を見つけて展覧会をする、というコンセプトの企画です。2006年には磯上の使われなくなった倉庫で、2008年は元町高架下、2010年には北野のローズガーデンで行いました。会場の空間、その場にあるものを生かして作家に展示をしてもらいます。

「地力Ⅰ」が始まったきっかけは、知りあいの不動産屋に磯上の倉庫を見せてもらった際に一目で気に入り、貸してほしいと交渉したことです。最初はOKをもらえなかったのですが、最終的にオーナーの方に「なにしてもかまへん」と言っていただきました。少し上品に展示をしたら「えらい上品にやったなぁ、もっと激しくやるのかと思っていた」と言われました(笑)。現在は、倉庫は解体されて更地になっています。

「プラネットEartH」として、元町でアートスペースを運営しはじめたのは「地力Ⅱ」がきっかけでした。ここでお茶を飲み、休憩し、ぼんやりと本を読み、おしゃべりできる空間を作りたいなと思ったのです。この場所では近所付き合いが多く、人間の面白さを日々実感しています。自分の知らない人生経験をたくさんしている人たちに出会います。学校へ行って、就職して、お金を稼いで・・・という営みをしてきた私たちはあまりにも普通なのだと思い知らされます。ものを見る基準、考える基準が違い、はっとさせられます。ここで店を出されている方の、商品の並べ方や手入れのしかたを見ていると、みんな自分の「コレクション」を見せたいのだなと思います。自分の世界を見て!と言っているのですね。だからこそ面白いのだと思います。ここでは周囲と遊離するような「美術」はせずに、ここに立ち寄った人が他の高架下のお店にも立ち寄ってくれるような、そういう環境をつくるよう意識しています。

「地力Ⅲ」では、テナントビルであるローズガーデンを会場にしました。ローズガーデンは安藤忠雄さんの設計で、昔はおしゃれな遊び場のひとつでしたが、いまは廃墟のようになっており、展覧会を通して、建物の良さや課題が徐々にわかってきました。中の景色はすごく綺麗なのに入口がわかりにくく、メインの入口が店舗の都合でふさがれてしまっていたのが衰退の原因ではないかと判明しました。この町や場所がこうなったのはなぜか、どんなわけが隠れていたのか、その場を使うことで初めて分かります。場の力をアートの力で抽出することは、たいへん興味深いです。

作家と仕事をすることは、理屈抜きに大好きです。この後どうなるのだろうとか、この場をどう作るのかということの予測がつかず面白いのです。作家は考える力、場を生かす力を持っています。私自身も作家活動をしていますが勉強になることも多いです。いい場所、いい作家は「におい」で見つけます。いいな、おもしろいなぁと思っているうちに、いつのまにか関わっていくものです。

※1 「プラネットEartH」ウェブサイト http://プラネットearth.jp/

 

1次調査

日時補足
空いている地球展:2003年8月、2004年9月
背景や目的
宮崎みよし氏を代表とする特定非営利活動法人リ・フォープによる活動は数多くあるが、阪神淡路大震災に関わりが深いプロジェクトは、 「六甲アイランドWATER FRONT OPEN AIR PLAYー潮風・アートー」(以下、六甲アイランド野外彫刻展)および「空いている地球展」のふたつである。(ちなみにリ・フォープとはRIWFOAPと書き、六甲アイランドのプロジェクトの頭文字を取ったものである)
対象
一般
内容
六甲アイランド野外彫刻展は、宮崎氏の知人が六甲アイランドに店舗を構えたことをきっかけに開始した、その周辺のエリアで彫刻設置、パフォーマンスなどを行うプロジェクト。1993年より2002年まで、1995年を除き毎年開催された。 空いている地球展は、震災の被害で長田の町並みが一旦崩れ、再び家屋が建っていく過程で、町に空き地が点在するようになったことをきっかけに、空き地を活用し作品を設置するプロジェクト。2年連続で行われた。
発起人・主催団体
特定非営利活動法人 リ・フォープ
場所
長田区御蔵