神戸ルミナリエ メッセージカード
2009年12月14日戸井由香里さん/神戸芸術工科大学4年生(当時)
テキスト:加藤慧神戸ルミナリエ・メッセージカード
・活動当時 神戸芸術工科大学ビジュアルデザイン学科4年生
震災について、もっと知るべき
神戸芸術工科大学内でルミナリエプロジェクトの呼びかけがあり、自分のデザインしたものを商品化できたらいいなという思いから参加しました。プロジェクトに参加するまでは、ルミナリエが震災復興・鎮魂の行事であることを知らなかったのですが、プロジェクトに参加する以上、震災について知るべきだと思い、震災関連の本を読み、両親に震災のことを聞き、人と防災未来センターという震災関連施設の見学をしました。
ルミナリエは遺族の方のためにあるはず
最初は遺族の方のために何かできないかと思っていたのですが、2008年に参加したルミナリエでは商品を売ることばかり考えていました。会期中のある日、亡くなった方の写真を持ち、ひとり静かにたたずむ人を見て、ルミナリエはご遺族のためにあるはずだ、イベント化しつつあるルミナリエに私は疑問を感じ、この人のために何かしたいと強く思いました。
私は、私の震災について考えたらいい
何事も知っておかなければならないと思い、ご遺族がどんなことを思っているのかを肌で感じるために、2008年に開催された「1.17のつどい」に参加しました。けれど、そこに集まった人たちは家族を亡くされた方ばかりで、大した被害を受けなかった自分がいることに罪悪感を覚えました。参加することで、ご遺族の思いが少しでもわかるのではと思っていたのですが、話もできず、思いを理解することもできませんでした。ずいぶん悩みましたが、無理にわかろうとしなくてもいいのではないか、私は私の震災について考えたらいいと思いました。
その翌年、2009年6月にNHKの「若者は震災に対して何ができるか」という活動に参加しました。そこで何回も打ち合わせを行う中で、“震災を忘れてはいけない”というみんなの意見に疑問を持ちました。なぜ忘れてはいけないのか、忘れたい人もたくさんいるのではないか、と思いましたが、誰にも聞くことができませんでした。約半年後、第2回目のイベントがあり、観客として参加しました。そこで、遺族の方の「みんなが震災のことを忘れないでいてくれる。だから私は日常生活の中で震災を忘れていられる」という言葉を聞いて、忘れないでいるだけで救われるご遺族がいるということがわかりました。この経験から、みんなが震災を忘れないように何かしようと日時を刻んだカードの制作を行いました。
1000枚のカードが完成
実際のデザインアイデアはなかなか決まりませんでしたが、ゼミ生や先生に相談していく中で、光を使ってメッセージを伝えるカードが生まれました。カードに使用した紙は、障がい者の方が作ったもので、1枚1枚手作りで仕上げました。本番の直前に体調を崩してしまい、ゼミ生を中心に10名の友人に協力してもらって、1000枚のカードがなんとか完成しました。
カードの配布を待っていた人との出会い
神戸新聞で配布の告知をしたこともあり、1000枚のカードはすべて配りきりました。100枚が10分でなくなるほど、多くの方に受け取ってもらえ、「ありがとう」や「きれいだね」「新聞見たよ」などいろいろなコメントをもらいました。中でも一番うれしかったのは、配布2時間前に1人のおばあさんが神戸新聞を握りしめ、カードの配布を待っていてくれたことです。制作中は、ご遺族に対して失礼にならないか、若い学生のアイデアなんて受け入れてもらえないのではないかととても不安でしたが、このおばあさんに1番にカードをお渡しし、お話しすることで、間違っていなかったと感じることができました。
自分の支えになっている
私自身、震災に対して何もできないし、関係ないと思っていました。けれど、カードを待ってくれていたおばあさんに会えたことや感謝してくれる人がいること、求めてくれる人がいたことなどが自信につながりました。そしていまでも、あの経験が自分の支えになっています。
何かしたい人、何をしたらいいのかわからない人はたくさんいると思います。自分もその1人でした。東日本大震災をテレビで見て思ったことは、一瞬で人の命を奪ってしまう震災の恐怖を忘れず、亡くなられた方や遺族の方の分まで毎日を後悔なく大切に生きようと思うことだけでも意味があると思います。