段差式仮設トイレの腰掛け台
1995年2月〜1995年4月相良二朗さん/神戸芸術工科大学教授
テキスト:加藤慧段差式仮設トイレの腰掛け台
相良 二朗 氏(神戸芸術工科大学 プロダクトデザイン学科教授)
・活動当時 リハビリテーションセンター
・ヒアリング日 2011年9月9日
避難所には洋式トイレが必要だ
1995年1月末、リハビリテーションセンターのスタッフが避難所をめぐって現状を調査しました。その結果、避難所生活をしている高齢者はあまり動くことができず、筋力的にも衰えてしまい、身体機能が低下していることがわかりました。私は震災以前からまちづくりの仕事をする中で、パブリックな場所では洋式トイレが非常に少ないことが課題だと感じており、洋式トイレを普及させることができないものかと悩んでいました。そして震災が起こり、災害という大きな相手に対して、自分たちはほんの一部のことしかできないものの、何もしないよりはましだと思い、高齢者の動きをサポートすものや洋式トイレをつくる活動を始めました。
当時の避難所には、和式トイレしかありませんでした。兵庫県神戸市は仮設トイレを持っておらず、全国から大量の仮設トイレが届きましたが、洋式トイレはありませんでした。家では洋式トイレ、避難所では和式トイレという状況でした。高齢者や障害のある方は洋式トイレしか使えない方が多いので、避難所には1つでも洋式トイレが必要でした。
腰掛け式のトイレ
しゃがむことが困難な方のために「段差式の仮設和式トイレ」を「腰掛け式のトイレ」として使用できる腰掛け台を22台、手作業で制作しました。組み立てた状態で避難所に持っていき、設置しました。22台は、企業から提供してもらった材料と作業期間から制作できる限界数でした。
西神から三宮方向へ避難所をめぐりながら、設置を行いました。本業をこなしながらの支援だったため大変でしたが、スタッフは皆、やらなければならないという使命感を持って活動していました。また、当時の水道は直送式でなく、集合住宅の高置水槽が倒れ水道復旧後も断水が続いていましが、私の職場の近所では市営住宅に高齢者が多かったため、リヤカーにポリタンクを積んで回ったりもしました。
イラスト、サインが必要
トイレの前で待ちかまえ、使った感想をたずねるのは失礼だと思ったため、利用者の声を聞くことはできませんでした。便座の部分に土足で上がるのではないかと心配でしたが、ちゃんと利用してもらうことができたと思います。
腰掛け台の使い方をわかりやすく説明するイラストや、5~6台ある仮設トイレの中で「このトイレが洋式トイレだ」とわかるサインも必要だったと思います。
学校は、生活できる場所ではなかった
当時の学校のトイレでは、車いすや高齢者への対応が全くできておらず、学校が避難所になることはわかっていたものの、生活できる場所ではないことが明らかになりました。その後、兵庫県はまちづくり条例の中で学校をバリアフリーにしようと決定し、現在は、車いすの方もトイレに行けるようになっています。
臨機応変に対応することが重要
3月11日の東日本大震災で見えてきた問題は、公平性ということではないでしょうか。現在でも配ることができていない支援物資が大量にあります。公平に配らなければ文句が出るのではないか、ということで配布されていない場合があるのです。公平性より公正性が大切ではないかと思いますが、このあたりが支援の難しいところでもあります。ニーズを聞き、部分的に直接提供するなど、臨機応変に対応することが重要だと思います。