キモチの防災マニュアル「地震イツモノート」
2007年4月永田宏和さん/NPO法人プラス・アーツ理事長
テキスト:加藤慧「地震イツモノート」
永田 宏和 氏(NPO法人プラス・アーツ 代表理事)
公式ガイドブック「地震イツモノート」
阪神・淡路大震災で得られた防災の知恵や技を風化させないために。2004年12月から2005年8月まで、当時の学生ボランティアや事務所のスタッフ約10名で、リサーチや被災者へのヒアリングを実施しました。それらをもとに、「防災グッズのセレクトショップ」や「建築家がつくるシェルターの街」などさまざま展示を行った「地震EXPO」の公式ガイドブックとして「地震イツモノート」を制作しました。
描き手にも、リアリティを
よりわかりやすく伝えるためには、言葉を絵にすることが重要だと考え、イラストでコミュニケーションするのがとても上手だと注目していた寄藤文平さんにイラストを依頼しました。寄藤文平さんは、たばこを吸う人と吸わない人の共存を目指した「大人たばこ養成講座」をはじめ、統計資料などをわかりやすく、ユーモラスに表現されています。防災という言葉を聞くと一歩引いてしまいがちですが、より親しみやすくしたいと考えました。
寄藤文平さんは地震を体験したことがないため、描き手にもリアリティを持ってもらうために神戸まで来ていただきました。「阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター」「大阪市立阿倍野防災センター」などで震災に関する知識を深めてもらい、当時の資料などをお渡ししました。
さまざまな体験をした方に聞く
被災体験から得られる教訓は、被災者のそれぞれの体験によって異なったメッセージがあるため、できる限りたくさんの被災体験談を集めようと考え、震災時家ではなく外にいた人、救助活動をしていた人、炊き出しをしていた人、避難所生活を送っていた人など、さまざまな体験をした人を探し、話を聞かせていただきました。震災から10年たっていても、家族を亡くされた方もおられ、細やかな配慮や心遣いが不可欠で、ヒヤリング調査はとてもむずかしかったです。また、カバーしきれない体験談などもありましたが、ある商店街が行った震災に関するアンケート調査資料を参照させていただくことができ、それらを埋めることができました。
たくさんのリサーチ、ヒアリング結果
うまくいったポイントは、まず、寄藤文平さんに出会えたことです。ふたつめは、寄藤さんが「ぼくは何も特別な仕事をしなくてよかった」というぐらい、バリエーション豊かなリサーチやヒアリング結果を数多く集めることができたことです。伝えたいことに強度が増し、社会的にも強いメッセージを発することができた、意味のある仕事となりました。
さまざまな防災教育プログラムの創造
プロジェクトの効果としては、風化しつつあった、10年前に神戸が学んだ防災の知恵や技を次の時代へと繋いでいくことに貢献できたことです。また、この本の制作を通して「被災者の代弁者」という存在として防災教育に携わることになり、「イザ!カエルキャラバン」など、さまざまな防災教育プログラムや防災教育教材などを生みだすことができました。
社会に求められての重版
この本を無事に出版できたことは、とにかくうれしかったです。防災という、とっつきにくいジャンルを扱っているにもかかわらず異例の売上で、3月11日の東日本大震災以降は特に爆発的に売れました。重版が増えれば増えるほど、社会から求められ、読んでもらっているということなので、世の中の役に立てたという喜びは非常に大きいものでした。さらに、2011年9月1日には「地震イツモノート」の子ども版とも言える「親子のための地震イツモノート」も出版されました。
つねに、活動は謙虚な気持ちで
被災した方にお話を聞く際の心構えとしては、思いやり、謙虚な気持ちがとても大切です。傷が癒えるにはそれなりの時間の経過が必要で、自分自身で消化できるようにならなくてはなりません。そういう意味でも、震災直後や5年後ではなく、震災から10年たっていたからこそ、この本の制作が実現できたのではないかと思います。
私が意識したのは、聞いた話はなるべく編集せずに、そのまま伝えることでした。私の役割はあくまでも“伝える”ことだ、というぐらい謙虚な気持ちで活動しました。これから活動しようとしている方も、そういう気持や姿勢を持ちながら、被災地で起こったさまざまな教訓や被災した中から得られた知恵や技を伝えてほしいと思います。